れる時に頻繁にお供にした一人だ。
「どうして…ここに」
「今宵はローゼンリンデ様のご結婚相手を決める舞踏会が開かれ、近隣の名士の方々
を失礼なくお相手すべく人手はほとんど本館の方にとられてます。また浮ついた気分
は下々まで流れ、街全体が浮かれて騒然としております。ここを出るにまたとない好
機です」
「私の脱出に手を貸してはただではすまないぞ?」
「どのみちお暇を頂くつもりでした。私はご不要なようでしたから」
ああ、そういえば義姉は母に関わった者には徹底して冷遇したという話を聞いたこ
とがある。
「なにより私がお守りすることを誓ったのはエルタルミナ様であってローゼンリンデ
様ではございません」
真っ直ぐなトレイスの視線を見返す。と、不意に視界が歪んだ。
「まだ、こんなものがあったなんて…」
枯れ果てたと思っていた涙が頬を濡らす。
嬉しかったのだ。自分を思ってくれる言葉にあまりに飢えていて、本当に嬉しかっ
たのだ。
ゴシゴシと乱暴に涙を拭い、私は私の騎士に笑って見せる。
「連れて行ってくれ。此処ではない何処かへ」
(続く)
【=来たれ、暁=の最新記事】

